基幹系システムは施主の目指すビジネスの実現を支援するものでなくてはなりません。ここで注意したいのが、表面化している問題の原因を分析してそれに対する改善策を並べることでビジョンが出来上がったと錯覚してしまうことです。個別の原因を除去しても全体構造の歪みを解消しなければ、その歪から新たな問題が発生してしまい問題の解消にはつながりません。本質的な問題解消につなげるためには、施主が業界の常識や現状のシガラミにとらわれずに、ひたすら理想のビジネスを描くことを通して、本質的な問題に気づき,それを乗り越える動機付けを得ることが必要です。
業務構想の作成は簡単なことではありませんが、当初はあいまいなものであっても
早期にモデリング、アーキテクティングに行うことで、より改革的で実行性のある
業務構想(Concept Of Operations)へと洗練することができます。
ビジョンの一例
どんな業務構想を実現するにしても、基幹系システムが持つべき重要な機能があります。
それは、ビジネスの事実を実績だけでなく予定も含めて正確に捉えて近未来を予測し、常に現状とのギャップを監視し、
適時に対応策をとるものです。
「ビジネスの事実(fact)」とは、販売や製造、調達などのビジネスで発生する「こと(event)」に関する情報です。「こと」は「モノ」と「ヒト」,時間と空間などの資源を使って付加価値を生成します。付加価値の生成は原価を伴うと言い換えてもいいでしょう。どんな資源をいつどのくらい使用/消費し,どのくらい付加価値を生成するかは,業務知識を基に一定の蓋然性をもって予定することができます。
たとえば、ある商品に対する注文をいただいたとすれば、その注文に関わる「入荷/出荷」とそれに伴う「請求/入金」などの「こと」が予定できます。場合によっては,「製造」と「仕入」が必要かも知れません。この予定によって、ヒト、モノ、カネの準備ができ、これを実行したときの予定との差異,資源の流れを把握できます。この予定と実績のデータを基に過去、現在、未来の知りたい時点での資源の状況を見ることができます。これによって、資源利用の最適化や、「つぎにとるべきアクションは何か」というビジネス活動に活用できるようになります。
このビジネスの事実を記録する上で優れた構造を持っているのは、ベネチア商人の大発明とも言われる「複式簿記」です。複式簿記は企業活動をお金の流れで記録する最も実績のある方式ともいえます。
私たちは、ビジネスを経営資源の価値の変換の連続としてとらえ、複式簿記のデータの構造をお金の流れだけでなく,資源の流れとしてビジネスの事実を扱えるように拡張し、基幹系システムの中核に据えています。この拡張によって、個品レベルのモノのトレーサビリティを実現しています