マスタデータ整備、統合のためのモデリング
当社は、基幹系情報システムの刷新、データドリブン経営に向けて、お客様の課題、要望に対応したデータモデリングサービスを提供しています。
お客様の具体的な課題解決に向けて、実績のあるマスタデータ整備、統合のためのモデリングについてご紹介します。
ビジネスの変化とマスタデータ
グローバル化、ネットワーク化の進展、パンデミック、国際紛争、生成など、現在の企業を取り巻く環境の変化は激しく、ビジネスを変化させる要因は増大しています。
ビジネスの変化により、基幹系情報システムのマスタデータは、2つの大きなプレッシャーを受けています。(図1参照)
図1 ビジネスの変化とマスタデータ
- 変化対応によるマスタデータへの影響=マスタデータの複雑化とサイロ化
環境変化に機敏に対応できるように、企業は、組織改革や弾力的な組織変更を実施するとともに、事業そのものを見直し、買収、合併、売却も実行しています。グローバル化/ネットワーク化により情報量は増大し、顧客ニーズ、企業の販売/活動も多様化、変化し、競争も激化しています。企業は、存続、成長するために、新しい事業、商品/サービス、商流、顧客、パートナー、仕入先、生産形態やサプライチェーンなど、作り出していく必要があり、新しい事業、業務に対応し、情報システムが追加的に構築されます。ビジネスの変化により、顧客、パートナー、品目、組織など、マスタデータを複雑化、サイロ化する要因は日々増大しています。マスタデータは、顧客対応、業務運用していくためにメンテナンスに多大なコストを費やす一方、データ不整合、重複データ、不完全データの発生、など、リスクが生じており、ビジネスの変化による影響を受けています。
- 変化に対応するデータドリブン経営=データ品質の要求
多様化、変化する環境に対応するため、企業は、データをもとに、戦略立案、意思決定し、施策を実行するデータドリブン経営に着手し推進しようとしています。また、将来的に生成AIを導入し、企画からマネジメント、業務プロセス、組織まで変革するデータドリブン経営を視野に入れ、PoCを進めている企業もあります。しかし、データドリブン経営の推進、生成AIの本格的導入を実現するためには、会計、販売管理、在庫管理、生産管理など、基幹系情報システムのトランザクションデータが活用され、その基礎情報となるマスタデータについては、正確性、完全性、一貫性、最新性等を担保するデータ品質が求められます。米国調査会社Gartner社の2024年7月のレポートでは、企業の生成AIプロジェクトの失敗するリスクは大きく、失敗の主な要因の1つとして低いデータ品質が指摘されています。データレイク、DWH、分析ツールを導入しデータドリブン経営を実現しようとしても、多大な投資をして生成AIプロジェクトを推進しようとしても、マスタデータのデータ品質が高く維持できなければ実現は困難となります。マスタデータは高いデータ品質を要求されています。
ビジネスの変化に対応するため、マスタデータ複雑化、サイロ化から脱し、高いデータ品質を実現、維持するマスタデータ整備、統合が重要な課題となっています。
マスタデータ整備、統合の視点
マスタデータを整備、統合するマスタデータ管理(MDM)プロジェクトは
- プロジェクトチーム、システム部門、業務部門、経営、など、多くの関係者の参画と協力
- 調査/現状分析~設計/実装~データ移行~検証/テストまでの長期間と多大な工数
- MDMツールなど、MDMシステム構築のための多大な費用
が必要になります。
投資対効果、期間から考えても、基幹系システム刷新と同様に、MDMプロジェクトは、10年~20年に一度というようなプロジェクトになります。
データドリブン経営を推進するためには、整備、統合したマスタデータは、10~20年間ビジネスの変化に対応し、データ品質を保ち続ける必要があります。
そのためには、MDMプロジェクトを進める前に、次の2つの視点を持つことが重要です。
-
マスタデータ複雑化の要因の解明と吸収=再複雑化しないこと
- データの観点からの対症療法的な整備の限界
MDMプロジェクトについて
- データクレンジング、名寄せ、紐づけ、コード統一、メタデータによる整理など、複雑化、サイロ化したマスタデータの修正、整理
- MDMツールを導入し、その実装と機能の活用の検討
- データガバナンス強化によるマスタデータ登録、更新のプロセスやルールの検討
を進めている事例を多く見ます。
マスタデータの複雑化は、現象としては、
- 登録/更新のルールやシステムの未整備、ルールの遵守意識の希薄化などによる登録/更新の不備、運用管理面の問題により複雑化
- マスタデータが複雑化すると、ルールに基づいた運用も困難になり、複雑化が進展
という負のスパイラルになります。
マスタデータの修正、整理(a)により負のスパイラルを止め、MDMツールの機能の活用(b)とデータガバナンス強化(c)による運用管理により複雑化を防止するという解決方法ですが、複雑化したマスタデータの修正、整理はデータの観点からの対症療法的な整備になります。
データの観点からの対症療法的な整備では、ビジネスの変化によりマスタデータが複雑化する要因まで考慮されないため、以下の2点が問題になります。(図2参照)
① 曖昧さが残る整備の試行錯誤
複雑化したマスタデータは、登録、更新のミスによるものだけではなく、長年のビジネスの変化を反映し、多様なビジネス、業務の要素が入り混じり累積しています。
データの観点からの整備では、複雑さを解消しきれず、曖昧さが残り、曖昧さが残ると運用面の負担になり複雑化の温床になります。整備の試行錯誤が続きます。
② マスタデータ再複雑化の懸念
データの観点からの整備では、登録、運用ルールの遵守など徹底しようとしても、ビジネスの変化にルールや運用が追い付かず、再び複雑化する懸念があります。
ビジネスの変化=マスタデータ複雑化の要因を吸収しなければ再複雑化します。複雑化が始まると運用も難しくなり、複雑化は進展します。短期間で再び複雑化すれば、データ品質は劣化し元の木阿弥になり、MDMプロジェクトの多大な時間と費用が無駄になります。
図2 データの観点からの整理
- 概念モデリングによる複雑化する要因の解明と吸収
複雑化する要因はビジネスの変化によるものであり、データの観点からだけではなく、ビジネス、業務の観点からマスタデータを捉え直す必要があります。
- 同一の顧客、品目でも、ビジネス、業務によって様々な表記、役割、付加情報などあり、多様なデータになり、複雑化します。多様な複雑化したデータから、モデリングにより、概念を抽出し、役割や付加情報、概念間の関係など整理します。
- 複雑化、サイロ化しているマスタデータにより、どのような業務上の問題が発生し、その問題がどのような業務、マスタデータの構造上の問題に起因するのか、モデリングにより把握し複雑化する要因を解明します。
等々、当社は、概念モデリングにより、AsIs概念データモデルを作成し、概念抽出/整理、業務構造を把握し、複雑化する要因を解明し、ToBe概念データモデルを作成し、複雑化する要因と業務要求を吸収し、マスタデータを設計します。(図3参照)
図3 複雑化する要因の解明と吸収
-
統合マスタデータと業務システムの疎結合アーキテクチャ=業務システムへの影響や制約を与えないこと
マスタデータ統合により、各業務システムのマスタデータとの連携で運用負荷が大きくなることや各業務システムの変更、更新、統合などの自由度もなくなることで、ビジネスの変化への対応が困難になるのであれば、本末転倒となります。実際には、業務優先ですので、開発してもほとんど使用されないMDMシステム、MDMツールの導入になってしまいます。統合マスタデータと各業務システムのマスタデータが影響し合う密結合になれば、各業務システム間のマスタデータも密結合になります。ビジネスの変化に対応するためには、統合マスタデータと各業務システムのマスタデータの疎結合アーキテクチャ、整備された各マスタデータの運用と連携できる設計が必要になります。
当社は、その観点をもとに、論理アーキテクチャ、ToBe概念モデルを作成します。
疎結合アーキテクチャにより、
- 各業務システムの自由度が高く、ユーザーである業務部門との調整が円滑化するプロジェクト管理
- 新旧併存しながらのマスタデータ移行
- 統合対象とする業務システムのマスタデータを順次広げていく、小さく始めて大きく育てるマスタデータ統合
も進めやすくなり、プロジェクトの期間も短縮化します。
MDMプロジェクトが、ビジネスの変化への対応、高いデータ品質によるデータドリブン経営を推進することを目的とするならば、上記2つの視点が重要になります。
概念モデリングの進め方
概念モデリングの進め方を図4に示しました。
- AsIs概念モデル、ToBe概念モデルは成果物として重要ですが、モデルを作成、精緻化していくモデリングはより重要になります。モデリングの過程で、複雑化しているマスタデータ、その要因となるビジネス、業務の捉え方を参加メンバーで理解し共有します。新たなビジネスの変化、業務要求を吸収し進化させていくために、すなわち整備、統合後のビジネスの変化に対応するために、モデリングは重要になり、参加メンバーのモデリングスキルを向上させる重要な経験学習になります。
- ToBe論理モデルとAsIs論理モデルの対比により、AsIs、ToBeの継続、変更点が明確になり、影響も把握できます。
- モデルがあることで、移行、新旧併存方式の設計、検証などの課題解決につながります。
図4 概念モデリングの進め方
マスタデータ統合、整備の流れ
マスタデータ統合、整備の流れ、図5に示しました。
ステップ1から5まで当社がご支援し、ステップ4からお客様のシステム部門、実装パートナーが参画します。ステップ3の概念設計での成果物をもとに、ステップ3~4で実装方法、実装パートナーを選定します。(実装の詳細については、MDMツールや個別開発など実装方法、実装パートナーによって異なることもあり、記載していません。ステップ3~4で実装方法、実装パートナーを選定し、詳細化することを前提としています。)情報の共有やモデリングの理解のため、プロジェクトチームの他にシステム部門の方がステップ1から複数名参画されることが望ましいと考えています。
図5 マスタデータ整備、統合の流れ
プロジェクト体制例
実際のお客様でのマスタデータ整備、統合プロジェクト体制例を図6に示しました。プロジェクトの推進、マスタデータ整備、統合後の自社運用のために、システム部門、関係部門も含めモデリング教育を実施しています。
図6 マスタデータ整備、統合プロジェクト体制例
当社は、マスタデータモデリングのこれまでの経験とノウハウをもとに、お客様のマスタデータ整備、統合をご支援しています。
AsIs概念モデル、ToBe概念モデル、マスタデータ整備、統合のためのモデリングの詳細な内容、モデリング教育にご興味のあるお客様は、当社までお問い合わせ下さい。